【掛金は全額控除!】小規模企業共済とは?経営者の退職金代わりになる制度を解説

企業で働くサラリーマンは、退職時に「退職金」を受け取ることがありますが、個人事業主や企業経営者にとって「退職金」は無縁の存在と考えている方も多いでしょう。
小規模企業共済制度では、会社員以外でも退職・廃業後の蓄えを作ることができるほか、在職中には節税対策を行うことができます。
今回は、個人事業主や経営者の退職金代わりになる小規模企業共済制度について詳しく解説します。

1.小規模企業共済の概要

小規模企業共済は、昭和40年に小規模企業共済法に基づいて始まった制度です。
中小企業経営者や個人事業主が退職・廃業する場合に、その後の生活の安定・事業の再建に備えられるようになることを目的としています。

小規模企業共済は加入要件を満たしている人が掛金を支払うことで、退職・廃業時に掛金に応じた給付を受け取れる仕組みです。
掛金は全額控除対象のため、将来の蓄えを作りながら節税対策も可能な制度として、退職金代わりに利用されています。

2.小規模企業共済を利用する3つのメリット

小規模企業共済を利用することで、以下3つのメリットを得ることができます。

・掛金の全額を課税所得から控除できる
・経営者の退職金代わりになる
・貸付制度を低金利で利用できる

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

2-1.掛金の全額を課税所得から控除できる

小規模企業共済では、掛金の全額を課税所得から控除できます
月々の掛金は1,000~70,000円の範囲内であれば500円単位で自由に設定できるため、自身の負担にならない金額を選んで積み立てていくことが可能です。
確定申告の際には、1年間で支払った掛金の全額を課税所得から控除することができるため、節税対策も可能。
なお、小規模企業共済の課税所得控除は、企業所得ではなく個人所得に対する控除のため、企業の節税対策としては利用できないので気をつけましょう。
掛金に関するさらに詳しい情報は、公式サイトでご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│掛金について

2-2.経営者の退職金代わりになる

小規模企業共済は、6か月以上掛金を積み立てることで退職・廃業時に共済金の給付を受けることができます
共済金には4つの種類があり、加入者の立場や請求事由によって受け取れる共済金に違いがあります。
受け取ることができる共済金の種類を「加入者立場:個人事業主」を例に見てみましょう。

共済金等の種類 請求事由
共済金A ・個人事業を廃業した

・共済契約者がなくなった

共済金B ・65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ(老齢給付)
準共済金 ・法人成りした結果、加入資格がなくなり解約する
解約手当金 ・任意解約

・掛金を12か月以上滞納(機構解約)

・法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが解約する

【引用元】中小機構│共済金(解約手当金)について

共済金は、受け取り時に「一括」「分割」「一括と分割の併用」から受け取り方法を選択します。
受け取り方法によって税法上の取り扱いが異なるため、詳しくは公式サイトでご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│掛金について「税法上の取り扱い」

2-3.貸付制度を低金利で利用できる

小規模企業共済の加入者は、掛金の納付期間に応じた限度額の範囲内で、貸付制度を低金利で利用できます
小規模企業共済で利用できる貸付制度は、以下の7つです。

貸付制度名称 貸付制度内容
一般貸付制度 掛金の範囲内で万が一のときの事業資金を迅速に借り入れできる
緊急経営安定貸付 経済環境の変化などで資金繰りが困難な場合に事業資金を借り入れできる
傷病災害時貸付 入院や災害などの被害を受けたときに経営安定化のための事業資金を借り入れできる
福祉対応貸付 共済加入者または同居家族の福祉向上のための資金を借り入れできる
創業転業時・新規事業展開等貸付 新規開業や転業するときや事業の多角化に必要な資金を借り入れできる
事業承継貸付 事業承継に必要な資金を借り入れできる
廃業準備貸付 廃業や会社の解散のために必要な資金を借り入れできる

【引用元】中小機構│小規模企業共済「貸付制度について」

経済環境の変化や経営者自身の病気など、万が一の場合の資金調達手段としても備えることができます。

3.小規模企業共済の加入対象者

小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業経営者または役員が加入できる制度です。
下記のいずれかに該当する個人事業主や小規模企業経営者または役員が加入対象者となります。

・建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社などの役員
・商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社などの役員
・事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
・常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
・常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人などの士業法人の社員
【引用元】中小機構│小規模企業共済「加入資格」

小規模企業共済の加入対象者は「法人」ではなく「個人」のため、掛金の支払いを会社経費として扱うことはできないので注意しましょう。

4.小規模企業共済の加入手続きの流れ

小規模企業共済は、中小機構が業務委託を結んでいる団体または金融機関の窓口で加入できます。
加入窓口によって手続き方法に多少違いがあるので、ここからは加入手続きのおおまかな流れを説明します。

4-1.加入手続きに必要な書類の用意

小規模企業共済に加入するために、まずは手続きに必要な書類を用意します。

加入対象者の立場 加入手続きに必要な書類
全立場共通 ・契約申込書(中小機構様式 小 10)

・預金口座振替申出書

個人事業主 ・確定申告の控え

・開業間もない場合には開業届けの控え

法人(株式会社など)の役員 ・役員登記されていることが確認できる書類
共同経営者 ・個人事業主の確定申告の控え

・個人事業主と締結した共同経営契約書の写し

・報酬の支払い事実が確認できる書類

振替口座がある金融機関とは別の窓口から加入申請を行う場合には、「掛金預金口座振替申出書」が必要となります。
詳しくは、公式サイトでご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│加入手続き「必要書類(公的書類等)」

4-2.加入窓口へ必要書類を提出する

必要な書類に必要事項記入し、中小機構が業務委託契約を結んでいる団体または金融機関の窓口で加入申請を行います。
加入窓口については公式サイトで、委託団体・代理店が公開されているのでご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│加入窓口

小規模企業共済では加入申し込み時に、現金または口座振替で初回の掛金の支払いをします。
現金で支払う場合には、必要書類に記入した払込区分に応じた金額の用意も必要です。
申し込み時の掛金支払い方法について詳しくは公式サイトでご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│掛金について「加入後の掛金納付例」

4-3.中小機構からの書類を受け取る

加入申請後、約40日ほどで中小機構から以下の書類が送られてきます。

・小規模企業共済手帳
・小規模企業共済制度加入者のしおり および 約款

小規模企業共済手帳のなかには、小規模企業共済契約締結証書や掛金の月額変更申込書なども含まれているため、しっかりと内容を確認してから保管しましょう。
また、加入申請後の審査で加入資格に該当していないと判断された場合には、「契約に係る審査結果の通知について」という書類が送られてきます。
加入できなかった場合、申込時に支払った掛金は預金口座への振込による返金が行われます。

5.小規模企業共済利用時の3つの注意点

小規模企業共済制度は、将来の蓄えを作りながら節税効果も期待できる便利な制度ですが、利用時には、以下の3つの注意点を理解しておくことが大切です。

・掛金が掛け捨てになってしまう場合があること
・加入期間によっては元本割れのリスクがあること
・掛金受け取り時には課税対象となること

ここからは、それぞれの注意点について詳しく解説していきます。
注意点を理解して不要なリスクを回避し、制度を上手に活用していきましょう。

5-1.掛金が掛け捨てになってしまう場合がある

小規模企業共済では、掛金納付月数によっては掛金が掛け捨てとなってしまう場合があります。
共済金の種類ごとの掛け捨てとなってしまう納付月数の目安は下記の通りです。

・共済金A:掛金納付月数6か月未満
・共済金B:掛金納付月数6か月未満
・準共済金:掛金納付月数12か月未満
・解約手当:掛金納付月数12か月未満

節税効果を期待して共済へ加入しても掛け捨てになってしまう期間があるため、加入前には、企業の状況からどのくらいの期間であれば無理なく加入できるかを判断しましょう。

なお、災害など契約者が原因でない理由で掛金の納付が困難となり解約を検討している場合には、掛金の納付を一定期間停止できる「掛け止め」という措置を受けることができます。
掛け止めを行う場合には、共済契約期間として計算されないなどの注意点があるので、下記しおりで掛け止め措置の対象や内容をご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│小規模企業共済制度のしおり

5-2.加入期間によっては元本割れのリスクあり

小規模企業共済では、基本共済金と付加共済金の合計額を共済金として給付します。

<用語解説>
・基本共済金:掛金の月額や納付月数に応じて請求事由ごとに規定されている金額
・付加共済金:毎年度の運用収入に応じて経済産業大臣が定める率から算定される金額

掛金月額1万円を例とした、請求事由ごとの基本共済金額は下記の通りになります。

納付年数 掛金合計額 共済金A 共済金B 準共済金 解約手当
5年 600,000 621,400 614,600 600,000 納付月数に応じて掛金合計の80~120%
10年 1,200,000 1,290,600 1,260,800 1,200,000
15年 1,800,000 2,011,000 1,940,000 1,800,000
20年 2,400,000 2,786,400 2,568,800 2,419,500

(単位:円)
【引用元】中小機構│小規模企業制度のしおり

解約手当は任意解約を行う際に受け取れる共済金で、基本共済金が固定されているほかの請求事由とは異なり、納付月数に応じて共済金支給率(%)が変動します。
この支給率は、1~11か月までは0%のためこの間に任意解約を行うと掛け捨てとなり、240か月(20年)未満だと80%台のため支払った掛金合計金額を下回ってしまいます。

そのため、共済の加入年数20年未満の場合に任意解約を行うと、元本割れとなり損をする結果になるので注意が必要です。
また、掛金納付月数240か月(20年)以上でも、掛金の増額や変更を行った場合にも元本割れを起こす場合があります、詳しくは小規模企業制度のしおりでご確認ください。
【中小機構】小規模企業共済│小規模企業制度のしおり

5-3.掛金受け取り時には課税される

小規模事業共済は掛金を支払っている期間は課税所得から控除できるため、節税対策としてもおすすめですが、受け取り時には課税されるため注意が必要です。
共済金は「一括」「分割」「一括と分割の併用」から受け取り方法が選択でき、受け取り方法によって税法上の取り扱い方が異なります。

受け取り方法 税法上の取り扱い方
一括受け取り 退職所得扱い
分割受け取り 公的年金等の雑所得扱い
一括と分割の併用 一括分:退職所得扱い

分割分;公的年金等の雑所得扱い

また、受け取る場合の年齢や立場によっても取り扱いが異なる場合があるため、詳しくは公式サイトにてご確認ください。
【中小機構】小規模事業共済│共済金(解約手当)について

6.小規模企業共済制度を上手に活用しよう!

個人事業主や中小企業経営者にとって、自分自身に何かあった場合、その後の生活や事業の将来を考え、備えていくことはとても大切です。
小規模企業共済は、掛金を個人所得の控除として使えるだけでなく、万が一の場合に低金利で企業の資金を調達できる方法としても利用できます。
退職後の生活をゆとりのあるものにするためにも、活用を検討してみてはいかがでしょうか。

小規模企業共済は、一部地域では加入時に支払う掛金などの補助制度を利用できます
小規模企業共済のように将来に備える制度に使える補助金や助成金について知りたい方は、ぜひ一度補助金活用支援合同会社へご相談ください。

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監修者プロフィール

補助金コンサルタント 上田 晃生

1977年生まれ神奈川県横浜市出身。
OA機器の営業から飲食業界に入り店長・統括等を経験し、経営コンサルタント会社へ転職。

2021年に補助金活用支援合同会社を設立し独立。

経営者の潜在的な要望を引き出し、事業拡大を実現する「コンサルティング型」によって、1年間で100件以上の補助金申請をサポートし、1憶5千万円以上の採択を実現。

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