退職金制度の設立が難しい中小企業のための制度が、中小企業退職金共済制度です。
国の助成を受けられるだけでなく、節税対策にもなることがメリットです。
今回の記事では、中小企業退職金共済制度について、制度の概要やメリット・デメリットをご紹介します。
目次
1. 中小企業退職金共済制度の概要
中小企業退職金共済制度は、中小企業で働く従業員を対象とした、国が設けている退職金制度です。
共済制度に加入した企業(事業主)が、従業員の退職金を毎月の掛金納付で積み立てる相互共済の仕組みで運営されています。
中小企業退職金共済制度を活用することで、中小企業でも退職金制度の導入が可能です。
また、国からの助成を受けることができるほか、掛金の全額が非課税になるなどのメリットがあります。
中小企業で働く従業員の福祉を増進させて企業の発展に役立てることが目的のため、従業員が安心して働ける環境に整え、優秀な人材の定着を図ることができます。
2. 中小企業退職金共済制度の加入条件と対象者
中小企業退職金共済制度に加入するには、業種別に設けられた条件を満たす必要があります。
以下のとおり条件は厳しくなく、常用従業員数または資本金・出資金の額のどちらか一方の条件を満たせば加入可能です。
業種 | 条件 | |
常用従業員数の場合 | 資本金・出資金の場合 | |
一般業種(製造業・建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | 5,000万円以下 |
小売業 | 50人以下 | 5,000万円以下 |
また、契約者は企業(事業主)ですが、所属する従業員が加入対象者となります。
対象者全員の加入が原則必須となりますが、下記の従業員は加入する必要はありません。
- 期間雇用の従業員
- 短時間勤務の従業員
- 試用期間中の従業員
- 休職中や休職に準ずる従業員
- 定年などで雇用関係が終了することが明確な従業員
なお、加入できないケースは以下のとおりです。
- 経営者や役員の方
- 加入に反対意思を表明した従業員
- すでに中小企業退職金共済制度に加入している方
- 小規模企業共済制度に加入している方
- 社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している従業員
- 特定業種退職金共済制度に加入している方※
※中小企業退職金共済制度と特定業種退職金共済制度は、どちらか一方の制度にしか加入できません。
詳しい加入の条件に関しては、以下のサイトでご確認ください。
【独立行政法人勤労者退職金共済機構|加入の条件】https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido03.html
3. 中小企業退職金共済制度の5つのメリット
中小企業退職金共済制度は、企業(事業主)側だけでなく、従業員にとってもメリットがある制度です。
具体的なメリットは、以下の5つです。
- 掛金は損金または必要経費で全額非課税になる
- 掛金の一部は国からの助成が受けられる
- 従業員の福利厚生を拡充できる
- 退職金は中小企業退職金共済制度から直接支給される
- 運用利息がつくなど加入者にもメリットがある
共済制度のメリットについて、1つずつご紹介します。
3-1. 掛金は損金または必要経費で全額非課税になる
企業(事業主)が負担する掛金は、税法上において全額非課税の対象となり、従業員の給与所得にもなりません。
法人企業の場合は損金に、個人事業主の場合は必要経費にできるため、節税が可能です。
ただし、資本金または出資金が1億円を超える場合、外形標準課税が適用されます。
3-2. 掛金の一部は国からの助成が受けられる
中小企業退職金共済制度は、国の助成が受けられる退職金制度です。
新しく中小企業退職金共済制度に加入する事業主の場合、納付開始4ヵ月目より、従業員1人につき5,000円を上限として1年間の助成が受けられます。
また、月額掛金を1万8,000円以下に設定し、途中で増額変更した場合に受けられる助成もあります。
詳しくは以下のサイトでご確認ください。
【独立行政法人勤労者退職金共済機構|Q&A(よくあるご質問)】https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/faq/qa-01/1-2-1.html
3-3. 従業員の福利厚生を拡充できる
中小企業退職金共済制度に加入した従業員は、福利厚生サービスとして、共済と提携するホテルやレジャー施設を割引価格で利用可能です。
福利厚生が充実することは従業員にとってメリットであることはもちろん、事業主にとっても従業員の定着率を上げやすいというメリットがあります。
3-4. 退職金は中小企業退職金共済制度から直接支給される
共済に加入している従業員が企業を退職する場合、従業員本人が中小企業退職金共済制度に退職金を請求し、中小企業退職金共済制度から従業員本人に支給されます。
また、掛金の納付状況や最新の退職金額について、共済から企業にお知らせが届くため、退職金の管理が容易なことも魅力です。
3-5. 運用利息がつくなど加入者にもメリットがある
中小企業退職金共済制度では、掛金の納付を3年7ヶ月以上継続すると、運用利息などが加算されます。
また、従業員が転職する場合、転職先が同共済制度に加入しているなどの一定条件を満たしていれば、掛金を通算できる場合もあります。
詳しくは以下のサイトでご確認ください。
【独立行政法人勤労者退職金共済機構|通算制度】https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido05.html
4. 中小企業退職金共済制度の3つのデメリット
中小企業退職金共済制度には、以下3つのデメリットがあります。
- 短期間で退職した場合は損をする可能性がある
- 掛金はかんたんに減額できない
- 運用利率が変動する場合がある
制度を上手に活用できるよう、各デメリットについて理解しておきましょう。
4-1. 短期間で退職した場合は損をする可能性がある
加入した従業員が、掛け金の納付開始から1年未満で退職した場合、退職金は支給されず、納付した掛金分はそのまま損失となります。
また、1年以上2年未満で退職するケースでも、退職金額は納付総額を下回り、損となります。
納付した掛金総額を受け取れるようになるには、2年以上の納付が必要です。
入社1〜2年で退職する従業員が多い場合には、損をする可能性を踏まえて慎重に判断する必要があるでしょう。
4-2. 掛金はかんたんに減額できない
中小企業退職金共済制度の掛金月額は、従業員ごとに16種類から選択できますが、途中で掛金を減額したいときは当該従業員の同意が必要です。
もし、従業員から同意を得られない場合は、減額したい相応の理由があるかの判断が必要となるため、厚生労働大臣の認定書が必要となります。
また、懲戒解雇のために退職金を減額するなどの手続きも難しく、減額ができても、減額相当分は共済に没収されてしまいます。
減額は簡単ではないことを念頭に置き、共済掛金の月額を選択する際は慎重に判断しましょう。
4-3. 運用利率が変動する場合がある
掛金を3年7ヶ月以上納付すると運用利息がつくメリットはありますが、運用利率は毎年見直されていて、利率が0%の年もあります。
中小企業退職金共済制度は運用が目的ではないため、運用による大きな利益を得ることは期待せず、退職金の支給が主な目的であると認識しておきましょう。
5. 中小企業退職金共済制度の加入手続きと受け取りの流れ
企業(事業主)が新たに共済制度へ加入するための手続きは、以下のとおりです。
- 加入させたい従業員の同意を得る
- 従業員ごとに掛金月額を選択する
- 必要書類に記入して提出する
必要書類の受け取りと提出は、以下が窓口となっています。
- 金融機関(ネット銀行、ゆうちょ銀行、外資系銀行、漁協、農協を除く)
- 委託事業主団体(TKC企業共済会など)
窓口など加入に関する詳しい情報は、以下のサイトでご確認ください。
【独立行政法人勤労者退職金共済機構|加入手続き】https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/tetuduki/tetuduki01.html
また、加入者が退職金を受け取るには、従業員による以下の手続きが必要です。
- 事業主から退職金共済手帳を受け取る
- 退職金(解約手当金)請求書に必要事項を記入する
- 添付書類(住民票、身分証明書など)を揃える
- 書類を中小企業退職金共済制度の本部に送付する
詳しい情報は以下のサイトでご確認ください。
【独立行政法人勤労者退職金共済機構|従業員が退職した際の手続の流れ(従業員)】https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/taisyoku/taisyokuseikyuu_tetuduki02.html
6. 従業員の福利厚生を拡充できる中小企業退職金共済制度を活用して掛金で節税しよう!
中小企業退職金共済制度は福利厚生の拡充につながるため、従業員が企業に定着する一助となるでしょう。
また、国の助成を受けられるだけでなく、掛金は全額非課税で節税対策ができます。
制度のメリットとデメリットを考慮し、中小企業退職金共済制度への加入を検討してみてはいかがでしょうか。
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