さまざまな理由で就職が困難な人を積極的に雇用する事業主を支援する、「特定求職者雇用開発助成金」。
働き手の確保だけでなく人材育成にも活用できる助成金として、注目を集めています。
しかし、支援コースが複数あり、どのように活用したらいいか分からない人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、特定求職者雇用開発助成金の多様な支援コースについて徹底解説します。
1.特定求職者雇用開発助成金の概要
高年齢者や障害者、母子家庭の母など一定の理由で就職が困難である「特定就職困難者」の雇用に取り組む事業主を支援する助成金制度です。
「特定就職困難者」が抱える就職が困難である理由や企業の行う取り組みによって5つの支援コースが用意されており、働き手の確保や人材育成に活用できます。
要件や受給までの流れについては、「特定求職者雇用開発助成金とは?概要や要件などを解説!【働き手の確保に】」をご参照ください。
2.特定求職者雇用開発助成金の5つの支援コース
ここからは、特定求職者雇用開発助成金の5つの支援コースについて「対象者」「申請要件」「助成金額」を徹底解説します。
なお、この助成金の申請には、支援コースごとに定められている申請要件以外に「雇用関係助成金の共通要件」を満たす必要があります。
「雇用関係助成金の共通要件」については、下記をご参照ください。
【厚生労働省│雇用関係助成金に共通の要件等】
2-1.特定就職困難者コース
ハローワークなどからの紹介により、高年齢者や障害者、母子家庭の母などの就職困難者を継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主を助成するコースです。
【厚生労働省│特定求職者雇用開発助成金「特定就職困難者コース」】
2-1-1.対象者
特定就職困難者コースでは、以下の要件を満たす事業主・労働者が助成金の支給対象者です。
(事業主)
・雇用保険の適用事業主であること
・対象となる労働者へ賃金の支払いを行うこと
・労働保険料などの滞納がないこと
・採用日から6か月前後に「事業主都合」の解雇・雇い止めがないこと
(労働者)
・ハローワークなどの職業紹介より前に採用に向けた選考を開始していないこと
・職業紹介の時点で「在職者」でないこと
・助成金の対象期間途中に離職した労働者でないこと
・性風俗関連業などの接客業務に従事する労働者でないこと
【参照│特定求職者雇用開発助成金「特定就職困難者コース」支給要領】
上記以外にも、事業主・労働者の支給対象要件が定められています。
詳しくは公式サイトまたは支給要領でご確認ください。
2-1-2.申請要件
特定就職困難者コースでの申請を行う場合には、以下の申請要件と「雇用関係助成金の共通要件」をいずれも満たす必要があります。
・ハローワークや民間の職業紹介事業者からの紹介で労働者を雇い入れること
・雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として継続して雇い入れること
申請要件を満たしている場合でも、支給要領に定められている「不支給要件」に該当していると助成金の支給対象外となります。
申請を検討している方は、申請要件だけでなく不支給要件についても忘れずに確認しましょう。
2-1-3.助成金額
特定就職困難者コースでは、対象となる労働者の類型と企業規模によって助成金額が定められています。
以下は「中小企業事業主」に対する支給額です。
対象となる労働者の類型 | 助成金額 | |
短時間労働者以外 | 高年齢または母子家庭の母 など | 60万円 |
身体・知的障害者
※重度障害者などを除く |
120万円 | |
重度障害者 | 240万円 | |
短時間労働者 | 高年齢または母子家庭の母 など | 40万円 |
身体・知的・精神障害者
※重度障害者を含む |
80万円 |
支給対象期ごとに「労働者へ支払った賃金」を支給上限額としています。
中小企業事業主以外の方や「最低賃金の減額の特例許可」を受けている事業主の方は、助成金額が異なります。
詳しくは公式サイトでご確認ください。
2-2.発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
ハローワークなどからの紹介で、発達障害者や難治性患者を継続して雇い入れる労働者として雇用する事業主を支援するコースです。
事業主には、雇い入れた方に対する「配慮事項」についての報告が義務付けられています。
このコースでは、雇い入れから6か月後にハローワーク職員などによる職場訪問が実施されています。
【厚生労働省│特定求職者雇用開発助成金「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)】
なお、対象となる労働者を雇い入れて「職業訓練」や「賃金引上げ」を実施する場合には、このコースの1.5倍の助成金を支給する「成長分野等人材確保・育成コース」の活用がおすすめです。
2-2-1.対象者
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースでは、以下のすべてを満たす事業主・労働者を助成金の支給対象としています。
(事業主)
・対象となる労働者をハローワークなどからの紹介で「雇用保険一般被保険者の継続雇用する労働者」として新たに雇い入れること
・対象となる労働者の雇用管理に関する事項の報告を行うこと
(労働者)
・障害者手帳を所持していない者で、発達障害または難病を抱えている者
・雇い入れ日時点での年齢が満65歳未満であること
上記に該当する事業主であっても、支給要領に定める「不支給要件」に該当する場合には、助成金が支給されない場合があります。
助成金の不支給要件については、パンフレットをご覧ください。
2-2-2.申請要件
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースでは、支給要領に定められている「対象事業主に該当すること」が申請要件となります。
・支給申請書で提示する労働者が「対象となる労働者」の要件を満たしていること
・ハローワークなどの職業紹介事業者による紹介であること
・雇用保険の一般被保険者として雇い入れること
・対象となる労働者の継続雇用が可能であること
・対象労働者にかかわる雇用管理に関する事項の報告を行うこと
・やむを得ない状況下以外での解雇や雇止めをしないこと
・対象労働者を雇い入れた事業所において、書類の整備・管理を行うこと
【参照│発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース支給要領】
「やむを得ない状況下」とは、感染症の流行や災害などにより、事業所自体が休業している場合などが該当します。
詳しくは、下記のページでご確認ください。
【厚生労働省│特定求職者雇用開発助成金「天災等やむを得ない理由」にかかわる事業主向けQ&A】
2-2-3.助成金額
助成金額や助成対象となる期間は、対象者の類型と企業規模によって異なります。
助成金は、助成金対象期間を6か月ごとに区分した「支給対象期」ごとに支給されます。
対象労働者類型 | 企業規模 | 助成金総額 | 助成対象期間 |
短時間労働者以外 | 中小企業 | 120万円 | 2年間 |
中小企業以外 | 50万円 | 1年間 | |
短時間労働者 | 中小企業 | 80万円 | 2年間 |
中小企業以外 | 30万円 | 1年間 |
支給対象期は、雇い入れから起算した最初の6か月を1期とし、その後は6か月ごとに2期、3期となります。
2-3.就職氷河期世代安定雇用実現コース
就職氷河期世代安定雇用実現コースは、就職氷河期に正規雇用機会を逃し、キャリア形成がされなかったことで正規雇用につくことが困難な人を雇用する事業主を支援するコースです。
就職氷河期:バブル経済の崩壊後、雇用環境が厳しく就職難であった「平成5年〜平成16年ごろ」のこと。
この時期に就職活動を行っていた人たちのことを「就職氷河期世代」という。
このコースの対象事業者が、対象労働者に対して「職業訓練」や「賃金引上げ」の実施を検討しているケースでは、助成金額が1.5倍となる「成長分野等人材確保・育成コース」の活用も検討してみましょう。
2-3-1.対象者
氷河期世代安定雇用実現コースでは、以下の要件を満たす事業主・労働者を助成金の支給対象者としています。
(事業主)
・雇用保険の適用事業者であること
・対象となる労働者をハローワークなどの職業紹介事業者からの紹介で雇い入れること
・対象となる労働者を雇用保険の一般被保険者として雇い入れること
・対象となる労働者の雇い入れ日の前後6か月以内に「事業主都合」の解雇がないこと
・対象となる労働者を支給申請日の前日から過去3年間に「助成対象期間中」に事業主都合で解雇していないこと
・雇い入れ前後6か月に倒産などの特定受給資格となる離職理由で離職した被保険者が対象労働者の雇い入れ日における被保険者数の6%を超えていないこと
・対象労働者の出勤状況や賃金支払い状況などを明らかにする書類を整備、保管していること
(労働者)
・1668年(昭和43年)4月2日から1988年(昭和63年)4月1日に生まれた方
・雇い入れ日前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者期間が通算1年以下
・雇い入れ日前日から起算して過去1年に正規雇用労働者として雇用されたことがない
・「失業している」または「安定な職業についていない」かつ個別支援等の就労に向けた支援を受けている
・正規雇用労働者として雇用されることを希望していること
対象となる労働者の要件として「正規雇用労働者期間」が定められていますが、過去1年に正規労働者として雇用された期間があっても、事業主都合の解雇による離職である場合には助成金の対象者となります。
2-3-2.申請要件
氷河期世代安定雇用実現コースの主な申請要件は以下の通りです。
・対象となる労働者の要件をすべて満たす労働者を新たに雇い入れること
・雇い入れは、ハローワークなどの職業紹介事業者からの紹介であること
・対象となる労働者が、自営業者などの正規用労働者と同等以上の職業能力に従事していないこと
特定求職者雇用開発助成金での「正規雇用労働者」の定義については、公式サイトで明記されています。
【厚生労働省│特定求職者雇用開発助成金「氷河期世代安定雇用実現コース」】
2-3-4.助成金額
氷河期世代安定雇用実現コースでは、助成金の対象期間を6か月ごとに区分し、一定額ずつ助成金が支給されます。
対象となる労働者1人あたりの支給対象期間、助成金額は以下の通りです。
企業規模 | 支給対象期間 | 助成金総額 |
大企業 | 1年 | 50万円 |
中小企業 | 1年 | 60万円 |
対象となる労働者に支払われた賃金額が、助成金の上限額となります。
ただし、申請事業主が「最低賃金の減額の特例の許可」を受けている場合には、助成金額が異なります。
詳しくは公式サイトでご確認ください。
2-4.生活保護受給者等雇用開発コース
生活保護受給者等雇用開発コースは、通算3か月以上の支援を受けている生活保護受給者や生活困窮者を「対象となる労働者」として、継続雇用する事業主を助成するコースです。
事業主が行う取り組みに対する支援だけでなく、対象となる労働者が継続して働くことができるように、ハローワーク職員による職場定着についての相談・支援も行われます。
【厚生労働省│特定求職者雇用開発助成金「生活保護受給者等雇用開発コース」】
2-4-1.対象者
生活保護受給者等雇用開発コースの対象となる事業主・労働者は以下の通りです。
(事業主)
・雇用保険の適用事業主であること
・ハローワークなどの紹介によって雇用保険の一般被保険者として雇い入れること
・対象となる労働者を支給対象期末日まで継続して雇用していること
・対象となる労働者に関する出勤情報や賃金支払い状況などの書類を整備・保管していること
(労働者)
・ハローワークによる支援または、非保護者就労支援事業による支援、生活困窮者自立相談支援などの支援を受けている生活保護受給者または生活困窮者であること
・雇い入れ日時点の年齢が65歳未満であること
【参照│特定求職者雇用開発助成金「生活保護受給者等雇用開発コース」支給要領】
事業主は、助成金申請時に、対象となる労働者に対する配慮事項などについての報告が義務付けられています。
2-4-2.申請要件
生活保護受給者等雇用開発コースの申請には、「支給要領で定められている申請要件」と「雇用関係助成金の共通要件」のいずれも満たす必要があります。
・ハローワークまたは職業紹介事業者などの紹介により雇い入れること
・雇用保険の一般被保険者として、継続的に雇用できることが確実であると認められること
【参照│特定求職者雇用開発助成金「生活保護受給者等雇用開発コース」】
「継続的な雇用」とは、対象となる労働者の年齢が65歳以上に達するまで継続雇用することに加え、継続雇用期間が2年以上であることをいいます。
また、上記の申請要件を満たしている場合でも、助成金の不支給要件に該当する場合には助成金対象外となってしまうことがあります。
詳しくは支給要項をご確認ください。
2-4-3.助成金額
生活保護受給者等雇用開発コースの助成金支給額は、対象となる労働者の類型・企業規模によって異なります。
中小企業事業主が申請する場合、1人あたりの助成金額は以下の通りです。
対象となる労働者の類型 | 助成金額総額 | 助成対象期間 |
短時間労働者以外 | 60万円 | 1年 |
短時間労働者 | 40万円 | 1年 |
【参照│特定求職者雇用開発助成金「生活保護受給者等雇用開発コース」】
このコースの対象となる労働者に対して「職業訓練」「賃金引上げ」を行う場合、通常の1.5倍の助成金額が支給される「成長分野等人材確保・育成コース」の利用を検討してもよいでしょう。
2-5.成長分野等人材確保・育成コース
特定求職者雇用開発助成金の各支援コースの対象となる労働者を、デジタルグリーン分野などの成長分野業務に従事させる事業主を支援しています。
この支援コースでは「成長分野」「人材育成」の2つのメニューが用意されています。
それぞれのメニュー概要は以下の通りです。
・人材育成:対象となる労働者を採用し、人材育成を行い、賃金引上げを図る
申請事業主は、実際に行う取り組みに応じてメニューを選択する必要があります。
【厚生労働省│特定求職者雇用開発助成金「成長分野等人材確保・育成コース」】
2-5-1.対象者
成長分野等人材確保・育成コースでは、2つのメニューに共通して以下の要件を満たす事業主・労働者を助成金対象としています。
(事業主)
・対象となる労働者を支給要領に定める「成長分野」での業務に従事させること
・対象となる労働者に対して雇用管理改善や職業能力にかかわる取り組みを実施すること
・従事させた業務の内容や雇用管理改善などの取り組みを都道府県労働局へ提出すること
・支給申請時に「賃金引上げ報告」を提出すること
・人材育成計画の作成または、雇用管理責任者を選任すること
・支給要領に定める期間内に5%以上の賃金引上げを行うこと
(労働者)
・特定求職者雇用開発助成金のいずれかの支援コースで対象となる労働者の要件を満たしていること
・これまでに就労経験のない職業に就くことを希望していること
【参照│特定求職者雇用開発助成金「生活保護受給者等雇用開発コース」支給要領】
「就労経験」には、パートやアルバイトでの経験も含まれます。
ただし、就労期間が1年未満の職業に関しては未経験として扱われます。
2-5-2.申請要件
成長分野等人材確保・育成コースでは、メニューに共通した申請要件とそれぞれのメニューごとの申請要件、雇用関係助成金の共通要件の3つの要件を満たさなければなりません。
(メニュー共通)
・対象となる労働者の種別に該当する支援コースの対象者要件をすべて満たすこと
(成長分野メニュー)
・対象となる労働者を成長分野にかかわる業務に従事させること
・雇用管理改善または職業能力の開発に関する取り組みを実施すること
・上記を実施結果報告として提出すること
(人材育成メニュー)
・対象となる労働者がこれまで就労経験のない職に就くことを希望していること
・人材開発支援助成金を活用した職業訓練を実施し、訓練に関連した業務に従事させること
・毎月支払われる賃金を、雇い入れ日から3年以内に「雇い入れ日の賃金」から5%以上引き上げること
人材育成メニューの要件である「人材開発支援助成金」については、以下のページで紹介しています。
【合同会社SCS│人材開発支援助成金とは?概要や対象となる訓練を紹介│申請時の注意点も解説】
2-5-3.助成金額
成長分野等人材確保・育成コースの助成金額は、メニュー共通で以下の通りです。
対象となる労働者類型 | 助成金総額 | 助成対象期間 | |
短時間労働者以外 | 高年齢者、母子家庭の母、氷河期世代、生活保護受給者など | 90万円 | 1年 |
身体・知的障害者、発達障害者、難治性疾患患者 | 180万円 | 2年 | |
重度障害者など | 360万円 | 3年 | |
短時間労働者 | 高年齢者、母子家庭の母、氷河期世代、生活保護受給者など | 60万円 | 1年 |
身体・知的障害者、発達障害者、難治性疾患患者 | 120万円 | 2年 |
上記は「中小企業事業主」への助成金額の例です。
中小企業事業主以外の方や最低賃金減額の特例許可を受けている方の助成金額は、公式サイトでご確認ください。
3.特定求職者雇用開発助成金は働き手の確保・人材育成に活用できる!
特定求職者雇用開発助成金は、企業が抱える「働き手不足」「人材育成」の課題解決支援が期待できる助成金です。
少子高齢化社会による働き手不足が問題となっているからこそ、助成金などの支援制度をより効果的に活用し、課題解決に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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