個人事業主やフリーランスの方にとって影響が大きいといわれているインボイス制度が、2023年10月1日にスタートします。
実際にインボイス制度が始まると、どのような影響があるのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、インボイス制度開始に向けて個人事業主やフリーランスの方が対応すべき点や知っておいた方がいい点などを、基礎知識もあわせて、わかりやすく解説します。
目次
1.インボイス制度とは?わかりやすく解説!
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/24450652
インボイス制度とは、正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、請求書や納品書の交付や保存に関する制度のことです。
- 制度の導入時期:2023年10月1日
- 導入の目的:取引における消費税額を正確に把握するため
- 影響がある方:課税事業者と、課税事業者と取引のある免税事業者
- 導入による影響:課税事業者は「インボイス(適格請求書)」の発行が義務付けられる
- インボイスを発行するために必要なこと:適格請求書発行事業者になるための申請が必要
- 登録申請先:管轄地の税務署
「インボイス(適格請求書)」とは、請求書や納品書など適用税率や税額などの一定の事項が記載された書類のことで、必要な記載項目は下記6項目です。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額など
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
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2.インボイス制度は個人事業主も対象?
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/24886445
インボイス制度の開始に向けて、自身も対象となるのかどうか気になっている方も多いことでしょう。
個人事業主としてインボイス制度にどう対応していけばよいか、詳しく見ていきましょう。
2-1.インボイス制度の対象は課税事業者
インボイス制度の対象となるのは、課税事業者です。
課税事業者とは、消費税の納税義務がある法人や個人事業主のことをいいます。
課税事業者かどうかは下記のような基準で判断され、課税事業者に該当した年度※1から課税売上高※2に基づき消費税額を計算し、納税する義務が課せられます。
- 課税売上高が1,000万円を超えている
- 課税売上高または支払った給与などの金額が1,000万円を超えている
※1法人の場合は2期前、個人事業者の場合は2年前が該当年度となります。
※2課税売上高とは、消費税が課税される売上高のことです。
インボイス制度の適用下では、課税事業者が「適格請求書発行事業者」の登録をすることで、インボイス(適格請求書)の発行が可能です。
登録申請書を税務署に提出し審査を経て、適格請求書発行事業者になると、登録事業者として登録番号が付与されます。
- 法人の場合…現在の法人番号(13桁)の前にTを付けたものが登録番号
- 個人事業主の場合…新しく付与される13桁の番号が登録番号
自身の登録確認は、「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で確認することができます。
2-2.免税事業者はインボイス制度に対応できない?
免税事業者のままではインボイスを発行できないため、インボイス制度に対応することはできません。
インボイスを発行できるのは、先ほど述べた通り「適格請求書発行事業者」に登録した課税事業者のみだからです。
課税事業者と免税事業者の違いは、消費税の納税義務があるかないかです。
課税事業者には税務署への納税義務がありますが、年間の課税売上高が1,000万円以下の法人や個人事業主である免税事業者には、消費税の納税義務はありません。
2-3.個人事業主が適格請求書発行事業者に登録しないとどうなる?
適格請求書発行事業者に登録するかどうかは任意なため、免税事業者のままでいることも可能です。
ただし、納税の負担が増えたり、取引先との継続的な取引が難しくなったりと、これまで通りの業務をこなすことができなくなる可能性があります。
この懸念については、「5.個人事業主がインボイス制度導入に際して負う廃業のリスクとは」の項目で詳しく後述します。
3.個人事業主がインボイス制度に対応するメリット
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/25200916
適格請求書発行事業者に登録して課税事業者になることで、インボイスの発行が可能になります。
インボイスが発行できることで、これまで通り取引先との関係性をキープできる確率が高くなります。
個人事業主にとって、継続して案件を受けることができると安定した収入につながるため、取引先との関係性をキープできることはとても大きなメリットです。
4.個人事業主がインボイス制度に対応するデメリット
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/25139627
インボイス制度に対応し課税事業者になると、これまで免税事業者として恩恵を受けていた消費税免除というメリットを手放す必要があります。
また、インボイスに対応した会計ソフトやツールの導入など、初期費用がかかることもデメリットです。
しかし、会計ソフトやツールを導入することには、「請求書などの処理業務の効率化が図れる」「ペーパーレス化できる」など、よい面もあります。
多角的な視点でインボイス制度と向き合い、前向きに検討してみるのも悪くないのではないでしょうか。
また、政府が、新たに課税業者となる中小事業者や個人事業者の税負担を和らげるため、「激変緩和措置」の導入を検討していることも発表されました。
発表された内容は次の通りです。
- 1万円未満の取引の場合、インボイスなしでも仕入税額控除を可能とする
- 小規模事業主の場合、納税額は「売上税額の2割」を上限とする
この措置は、すべての事業者にとって安心材料となるのではないでしょうか。
5.個人事業主がインボイス制度導入に際して負う廃業のリスクとは
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/24985143
インボイス制度がスタートすると、売り手が免税事業者でインボイスの発行ができない場合、買い手である課税事業者は「仕入税額控除」を受けることができなくなります。
その結果、課税事業者が免税事業者の分の消費税も負担することとなり、納税額が増えてしまいます。
課税事業者はこれを避けるために、免税事業者に対して消費税分の減額を要求したり、中には取引そのものを打ち切ったりすることもあるでしょう。
これにより課税事業者と取引がある免税事業者は、売上額減少だけでなく、廃業のリスクも負うことになるのです。
課税事業者と継続して取引をしつつ免税事業者のままでいるのならば、利益減少を見越して、インボイス制度が始まる前から資金繰りに配慮しておく必要があるでしょう。
6.個人事業主はインボイス制度に対応すべき?
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/25140301
個人事業主のインボイス制度導入は、対応すべきケースとまだ待ってもいいケースがあります。
6-1.対応すべきケース
インボイス制度に対応すべきなのは、次のようなケースに該当する個人事業主です。
- 個人事業主だが課税売上高が1,000万円以上あり、すでに課税事業者の方
- 課税売上高は1,000万円以下の免税事業者だが、売上の大半を担うような主要取引先から適格請求書発行事業者への登録を提案されている方
すでに課税事業者である場合はインボイス制度の対象となるため、対応が必要です。
免税事業者だけれども取引先から適格請求書発行事業者への登録を提案されている場合は、取引先との取引継続のためにも、場合によっては手続きを進めたほうがよいかもしれません。
特に、売上の大半を担うような主要取引先からの提案である場合には、取引を継続させるために、対応を検討する必要があるでしょう。
6-2.対応はまだ待ってもいいケース
取引先が免税事業者で自身も免税事業者である場合は、お互いに消費税の納税義務が発生せずインボイス制度の影響を受けないため、免税事業者のままで問題ないでしょう。
6-3.簡易課税制度を適用する方法もある
取引先との関係性を優先し課税事業者になった場合でも、消費税を申告する際に簡易課税制度を適用するという方法もあります。
簡易課税制度とは、課税売上高が5,000万円以下の中小事業者や個人事業主の事務負担の軽減を目的として、届出を行った事業者に対し簡易化された仕入控除税額の計算を認めるほか、インボイスの保存が必要ないという制度です。
2期前の売上高が5,000万以下の場合に限りますが、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出することで、適用が可能です。
簡易課税制度を適用すれば、課税売上などに係る消費税額に「みなし仕入率」を掛けた金額を納税すればよいため、ややこしい計算がなくなり事務的負担が少なくてすみます。
みなし仕入率は、下記6種類です。
- 第一種事業(卸売業)…90%
- 第二種事業(小売業)…80%
- 第三種事業(製造業など)…70%
- 第四種事業(飲食業など)…60%
- 第五種事業(サービス業など)…50%
- 第六種事業(不動産業)…40%
複数の業種を取り扱う事業者の場合は、課税売上を業種ごとに分ける必要がありますが、上記の内、一種類だけを取り扱う事業者の場合、仕入控除税額は次のように計算します。
業種によっては、この簡易課税制度で仕入控除税額を計算したほうが節税につながる場合もあるため、自身の業種は簡易課税制度を適用するべきかどうか一度確認してみるとよいでしょう。
適用するべきか分からないという方は、補助金活用支援合同会社へご相談ください。
7.インボイス制度の経過措置期間とは?
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/25370461
インボイス制度には、経過措置として段階的な緩和期間が6年間設けられています。
下記の期間では、課税事業者以外からの仕入れも、一定の割合で仕入税額控除が適用されます。
- 2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の80%
- 2026年10月1日から2029年9月30日までの3年間は仕入税額相当額の50%
2023年10月1日から2029年9月30日までの課税期間中であれば、課税事業者(適格請求書発行事業者)になるための手続きは不要です。
課税事業者になるかどうか迷っている場合は、経過措置期間における控除適用の割合を見ながら考えるのも1つの方法です。
8.インボイス制度で大きな影響を受けそうな業種とは?
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/25075588
インボイス制度は、さまざまな業種や分野で影響が出ると予想されます。
個人で経営しているお店や業務委託契約を結んで働いてる個人事業主にとっても、それは同じです。
ここでは、特に影響が大きいと予想される「飲食店」「不動産」「美容室」について、解説していきます。
8-1.飲食店の場合
飲食店は、軽減税率(8%)と標準税率(10%)の両方を扱うことが多いため、インボイス制度への対応が強く求められる業種の1つといえるでしょう。
その一方で、飲食店が取引する相手の多くはインボイスの交付を必要としない消費者であるため、免税事業者のままでも問題ないケースがあるほどインボイス制度の影響が少ないともいえます。
ただし、消費者の中には会社の接待に店舗を利用し、接待交際費を経費として計上するためにインボイスの発行を要求してくる場合も考えられます。
このようにインボイスの発行に対応しない場合には少なからず客離れがあることも考慮して、インボイス制度に対応するかどうかを検討してみましょう。
8-2.不動産の場合
事務所ビルや店舗ビルなどのテナント物件を所有し、そこから家賃収入を得ているオーナーの場合は、インボイス制度の導入を検討する必要があります。
借りる側であるテナントが課税事業者でオーナーが免税事業者だとインボイスを発行できないため、賃料から消費税分を減額してほしいと交渉される可能性があるためです。
また、引っ越しや新規で物件を契約する際に、インボイス発行が可能な物件が優先される可能性もあり、免税事業者のままだと、空き部屋が埋まらない状況になるかもしれません。
このことから、課税事業者になることを検討する、賃料減額を検討するなどの対策が必要になることも念頭に置いておきましょう。
所有している賃貸物件が居住用の場合は、取引対象が事業者ではなく個人であるため、インボイス制度への対応は必要ないでしょう。
8-3.美容室の場合
美容室の取引相手は消費者でありインボイス制度の影響は受けにくい傾向にあるものの、美容師との契約次第では影響を大きく受けることがあります。
美容室は、美容師を正社員などで直接雇用しているケースだけでなく、美容師と業務委託契約を結んでいるケースもあるためです。
美容師に業務委託をしているケースで、美容室が課税事業者、美容師が免税事業者となる個人事業主の場合だと、インボイス制度の影響を強く受けることになりかねません。
お互いが気持ちよく働いていくためにも、美容室側は美容師側の気持ちを汲み取りつつ配慮する心配りが大切になってきます。
インボイス制度がスタートする前に、業務委託契約を結んでいる美容師に対して課税事業者になることへの検討をお願いする、もしくは給与面での相談をお願いするなどの対応が必要になるでしょう。
相談材料の案として、簡易課税制度の利用を提案してみるのもおすすめです。
美容師の「みなし仕入率」は50%のため、仕入れが収入の50%未満の個人事業主の場合は、簡易課税制度を適用した方が節税になる場合もあるからです。
9.個人事業主がインボイス制度スタート前にできる対策
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/24938851
インボイス制度は2023年10月1日から開始されます。
開始にあわせてインボイス制度に適用するためには2023年3月31日までに登録申請をする必要がありますが、2029年9月30日までの経過措置もあるため、個人事業主は事前にしっかりと対策をすることが重要です。
ここからは、個人事業主がインボイス制度スタート前にできる対策を3つご紹介します。
9-1.【対策1】インボイス制度に対応するかどうかを検討する
課税事業者になるかどうかは任意ですが、インボイス制度が開始すると、課税事業者と免税事業者の取引は減少することが予想されます。
そのため、まずはインボイス制度に対応するかどうかを、自身の状況を考慮してじっくり検討してみましょう。
課税事業者との取引が多い個人事業主は、インボイスを交付できる課税事業者になることを選択したほうが仕事への影響は少ないといえます。
ただし、課税事業者となった場合は、原則として2年間は免税事業者に戻ることができません。
「売上がよかった1年間だけ課税事業者になろう」などということはできないため、課税事業者になったほうがよいか免税事業者のままでいたほうがよいかを焦らずに検討するとよいでしょう。
9-2.【対策2】インボイス制度に対応しなくても収入を得られる方法を探る
現在、課税事業者との取引が多く、インボイス制度スタートに際して取引先減少のリスクを抱える個人事業主であっても、必ずしもインボイス制度に対応すべきというわけではありません。
「インボイスを必要としない個人や一般消費者との取引をメインにした商売を取り入れてみる」「新しく免税事業者のクライアントを見つける」など、インボイス制度に対応せずともこれまで通り収入を得られる方法はゼロではないからです。
簡単ではないかもしれませんが、工夫次第では何かしらの方法を見出すことも可能なのではないでしょうか。
こうしたさまざまな検討を重ねたうえで、課税事業者になるかどうかを決めても遅くはないでしょう。
9-3.【対策3】適格請求書発行事業者としての登録を進める
インボイス制度の導入をじっくり検討し課税事業者になることを決めた場合は、「適格請求書発行事業者」の登録手続きを行います。
免税事業者が登録する際は、「消費税課税事業者選択届出書」と「適格請求書発行事業者登録申請書」の2つを所轄の税務署に提出します。
提出書類は、国税庁のサイトからダウンロード可能です。
経過措置期間中であれば、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要であり、適格請求書発行事業者の登録を受けた日から課税事業者となります。
また、適格請求書発行事業者に登録するにあたり、会計ソフトや請求書のフォーマットがインボイスに対応しているものかどうかも、あわせて見直しておきましょう。
10.個人事業主はインボイス制度への対応をじっくり検討しよう!
参照元:https://www.photo-ac.com/main/detail/2765113
個人事業主がインボイス制度に対応することには、制度導入後も課税事業者との取引を継続しやすいなどのメリットがある一方、納税額が増えたり税処理作業が増えたりなどの負担も発生します。
こうした収入や案件数、資金繰りなどの変動にともない、これからの働き方や事業の計画についても、再度見直す必要が出てくることでしょう。
インボイス制度へ対応すべきかどうかはそれぞれの状況などにより異なるため、免税事業者のままでいてもよいのか課税事業者となるべきなのかは、じっくり検討することが大切です。
どちらにすればよいか分からない!
そのような場合には、補助金活用支援合同会社にぜひご相談ください。
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